コラム

成熟期の企業経営に必要な6つの課題

成熟期における企業経営とは?

「お客さまの目が厳しくなった」「物がなかなか売れなくなった」「他社との競争が激しくなった」など、「市場が成熟期を迎えた」という声は多い。今回は、成熟期に従来の企業経営をどのように見直せばよいのか? 次の6つの視点をヒントに本質的な問題と取り組むべき課題について紹介していこう。

1.顧客にとって魅力ある商品・サービスとは何か?

多くの企業が顧客志向の強化や顧客満足の向上を方針として掲げ、様々な努力をしている。しかし、魅力的な商品・サービスのアイデアに繋がることは少ない。多くの取り組みは、顧客の不満を解消するものであり、クレームなど顕在化した大きな不満に限られているからだ。最も象徴的なのが、広く活用されている顧客満足度調査である。実際に筆者に送られてきた新車購入者への顧客満足度調査アンケートを例にとって説明しよう(図表1)。50個近い設問のうち8個をとりだし、質問内容をA、Bの2つのグループに分けた。この2つのグループの違いは何だろうか?

【図表1】新車購入後の顧客満足アンケート

この2つのグループの違いは主語である。主語が企業側(Aグループ)なのか、顧客側(Bグループ)なのかということである。Aグループは、「企業として然るべきことをしていましたか?」と質問しており、然るべきこととは企業側が決めたことである。つまり、企業として決めたことが徹底できているかどうかを調べるための質問なのだ。

そもそも顧客満足とは、顧客のニーズを確認した上で、そのニーズを満たすことにある。Aグループの1つ目の質問であれば、まず“意向が何か?”について確認する必要がある。Bグループの質問は満足度が得られているかを確認する上では悪くはないが、「なぜ満足したのか?」「なぜ利用したいと思うのか?」を調べない限り、真のニーズは掴めない。顧客満足度調査の最大手が関与しているこのアンケートでは、Bグループに属する質問は図表1で挙げた4つだけであり、残りの40数個の質問は全てAグループであった。問題があるのは、顧客満足度調査だけではない。商品の企画書では、企業側を主語とした商品の特長がいくつも並んでいるものの、顧客を主語としたニーズやメリットに乏しいものも多い。顧客との関係強化を目的としたCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の取り組みでは、未だに新規顧客の獲得や攻略といった言葉が並び、真のニーズを探る領域にはほとんど手が打たれていない。

課題1.顧客を主語として、顧客の真意を追究し、潜在ニーズに応える商品・サービスを創造する

 

2.バリューチェーンのどこに力点を置くべきか?

バリューチェーンとは価値の連鎖であり、事業プロセスの繋がりとして企業活動を表したものである(図表2)。

【図表2】バリューチェーン(例)

すべての事業プロセスを強化する必要はあるが、力の入れどころには濃淡がある。製造業は開発に、サービス業は販売・サービスに特に力点を置いてきた。しかし、業界や日本社会全体の成熟によって、どの事業プロセスに力点を置くかについて再検討する時がきている。

例えば自動車業界はこれまで開発に力を入れてきた。欧米の自動車メーカーに負けない性能や品質を目指して、世界的な信頼を勝ち取ってきた。しかし先に述べたように、自動車に対する興味、関心は低くなっている。販売会社の利益の内訳をみると、新車販売は1~2割ほどであり、点検・修理などのサービスが4~6割を占め、残りは保険販売や中古車販売である。こうした状況下では新車を販売する局面だけではなく、アフターサービスも含めたユーザーとの接点に力を入れるべきである。メーカーは販売会社に自動車を卸す立場にあり、第一線の販売の現場からは遠い位置にいるため、ユーザーとの接点は販売会社任せになっている。

自動車業界の他にも、魅力的な携帯端末を販売することに力を入れてきた携帯電話会社では、生活の中で携帯端末をより幅広く活用するためのサービス拠点としてのショップ運営を考える時期がきている。
製造業だけではなくサービス業も同様にどの事業プロセスに力点を置くかの見直しが必要である。材料調達から製造、販売までの一連のプロセスを効率化することで、収益性を大幅に改善することができるからだ。製造業が持つ物づくりの知見を取り入れている企業は高い収益性を実現している。

製造業とサービス業の中間に位置づけられる小売業は、両方の視点を持って力点を判断する必要がある。例えば、プライベートブランドの開発や単品管理など製造業に近い部分の事業プロセスを強めてきたコンビニエンスストアやスーパーマーケットは、サービス業としての店舗運営について再考すべきではないだろうか? 客として店舗を利用すると、店員とぶつかりそうになることがある。店員が棚の管理に気を取られて、客が視野に入っていない時である。筆者が住んでいる地域では、地場の優良スーパーマーケットでは店員とぶつかりそうになることは少ないのだが、大手のスーパーでは3回に1回くらいの割合で店員をよけなければならない場面に出くわす。しっかりした飲食店では、ホールスタッフがテーブルの片付けをしながらも、半身の姿勢で他の客にも注意を払っている。飲食業などから学ぶこともあるのではないか?

このように、常にバリューチェーン全体の視点でバランスを考えながら、他の業界の良いところを取り入れて着実に事業プロセスを強化していくことが大切なのである。

課題2.他の業種から学びながら、バリューチェーンを幅広く捉えて事業プロセスの力点を見直す

 

3.全社が強いチームとして動けているか?

次に重要になるのは、多くの社員がチームとして力を発揮することである。顧客の真のニーズを捉えるためには、あらゆる顧客接点の中でニーズを洞察する力と粘り強さが大切になる。バリューチェーン全体の強化には、全社員の取り組みが前提となる。組織の縦割り意識など、全社の力を分散、または内部で消耗させてしまうような要素は排除していく必要がある。

まずは企業のミッションと価値観に立ち返ることが大切である。ミッションをもとに、商品・サービスの魅力を徹底的に追及し、その時代に合った提供価値を定義し、その実現のために全社員が思考・行動の指針を共有していく(図表3)。

【図表3】企業の提供価値と価値観

自動車業界では、「今の消費者、特に若者は車への興味・関心が薄れてしまった」と悲観する声も多い。しかし、その原因の一端は業界にもある。大きな原因の1つは、自動車の魅力よりも自動車業界の地位や安定性に魅かれた人材を多く入社させてしまったことである。筆者は大学時代に自動車部に属していたことから、よく知っている先輩・後輩だけで50名以上が自動車業界で働いている。自動車への強いこだわりを持った知り合いは、「ろくに運転をしたことがない新入社員が増えた。車のメカニズムもわかっていない。」などと愚痴をこぼす。ショールームに並んだ車を眺めていると、自動車メーカーに勤める社員自身の興味・関心が薄れているように感じてしまうのは筆者だけだろうか? 一方、自転車業界のインテルとも言われるシマノでは、自転車や釣りを楽しむ人の割合が非常に高い。社員が本気で楽しんでいることが、顧客に自然に伝わって、提供価値を高めているのではないか。

象徴的な業界として自動車業界を挙げて説明してきたが、この先多くの業界が同じような問題に直面するだろう。日本社会全体の成熟によって、若い世代への負担は増える一方であり、社会的な不安も増していく。そのような傾向が進むにつれ、商品・サービスに情熱を注げる人材は減っていくだろう。だからこそ企業のミッション、提供価値、価値観に基づいて、“企業のありたい姿”を具体的な行動としていく、いわゆる“理念経営”の実現が求められる。そのためには、採用、企業への同化、育成といった人材マネジメントプロセスを見直すことも重要となる。

課題3.企業のミッション、価値観を再確認し共有した上で、 “企業のありたい姿”を社員の具体的な行動に反映する

 

4.次世代を担うリーダーが育っているか?

全社が強いチームとして動くためには、リーダーの存在が不可欠である。真のリーダーは、会社の事業や組織への強い問題意識を自ら発信する。その問題意識に賛同した人が、リーダーを後押ししてくれる。リーダーは、その期待に応えるために必死に努力して最後までやり切ろうとする。結果として能力が向上していく。こうしたリーダーが成長する過程を踏まえると、次世代リーダー育成で押さえるべきポイントは図表4の3つである。

【図表4】次世代リーダー育成で押さえるべきポイント

1つの方法として、改革活動を通してリーダーを育成するアプローチがある。具体的には、重要課題をリーダーとチームに課して、財務効果など成果を出す真剣勝負の場をつくり、実践的にリーダーを育成することである。必要な知識やスキルを強化する階層別研修が横糸だとすれば、企業の重要課題を解決する実践的な育成プログラムは縦糸である。横糸は通したものの、それを経営課題の解決など事業にどのように活かすのかという縦糸との関係が見えていないことが多い。

課題4.研修などで得たことを重要課題の解決に活用し、チームとして成果を出すことで真の次世代リーダーを育てる

 

5.適切なマネジメントができているか?

限られたリソースで企業活動を推進するためにはマネジメントの方法が重要となる。バランスト・スコアカードの4つの視点で、マネジメントの領域を示した(図表5)。

【図表5】マネジメントの4つの領域

この中で1つ特筆したい領域は、顧客の視点のところである。具体的な営業・サービス活動につなげるために、顧客との関係を管理する指標を設定する必要がある。前述の顧客満足度調査アンケートを例にとると、質問の内容に顧客の真意を探る上で欠陥がある。重要なことは、「顧客がどのように回答したか」ではなく、「顧客がどのように行動したか」である。その他よく活用されているのは、認知獲得、見込み客の発掘、商談、受注といった営業プロセスに指標を設定する方法である。しかし、これは顧客を開拓する成長期の指標である。ある局面において営業スタッフにどのような行動を促すかを決めるためには有効だが、顧客との関係を管理する上では不十分である。
成熟期に顧客との関係を管理するためには、直近の利用日からの期間と利用額累計の2軸による枠組みが有効である(図表6)。

【図表6】2軸による顧客との関係管理

この枠組みで整理する際に、根拠となるのはあくまで事実であり、データである。狙いは「顧客がどのように自社と付き合っているか」を視覚化することにある。Bの領域は、以前はよく利用してもらえていたのに、何かがきっかけで疎遠になってしまった顧客である。引越しなど顧客の理由によるものであれば問題ないが、自社に原因があるとしたら問題である。Dの領域の顧客には、改めて利用していただくためのきっかけを準備する必要があるし、Cの領域の顧客には今利用していただいている商品・サービスをより充実させる提案が必要である。自社を気に入って利用いただいている顧客との関係を強めていくことを考え、無理をしてEの領域に手を当てないことである。
ネット販売で成功している企業や、点検・修理で確実に利益を上げている自動車ディーラーなどは、この考え方を活用している。顧客との関係をもとに社員の具体的な行動に繋げて、PDCAを回せる仕組みを確立しているのだ。

課題5.顧客、業務プロセス、学習と成長、財務の4つの領域について管理指標を設定し、PDCAを回す方法を確立する

 

6.意思決定や実行の質とスピードを上げられないか?

最後は、これまで紹介した5つの課題に取り組む上でも非常に大切である。取り組むべき課題が見えても、解決されないのはなぜだろうか?

原因は2つ考えられる。1つはその課題が難題であること、もう1つは責任者や体制が決まらないことである。最近はロジカルシンキングや問題解決の手法についての関心が高まり、企業研修などが盛んだ。様々な方法論を学んでいるにも関わらず組織の動きが鈍いとしたら、2つ目の原因による影響が大きいだろう。
このような問題に手を打つ方法として、課題の設定から解決までのプロセスを“型”として持ち、課題の優先順位付けや活動体制の決め方についてのガイドラインも整備することである。「~が問題だ」「~に取り組むべきだ」という発言が多く聞かれながらも、一向に変化が見られないのは、その問題や課題をどのように議論の土俵に乗せればよいのかがわからないことが原因となっている場合が多い。ガイドラインに従って、課題の候補を吸い上げ、一定の基準によって取り組み課題として認め、責任者及び体制を組む、一連の流れをつくることが大切である。

シックスシグマを導入していた大手電機メーカーが、ある手法をブラジルの工場に導入したところ、改善のスピードが3倍以上にあがったそうである。手法と言っても、問題を確認し、プロセスを描き、問題個所を特定して、原因を追及して、策を打つ、という言わば当たり前のステップである。その組織に合った方法論を浸透させればよいのである。方法論が緻密で高度になるほど、その方法論に従うことに労力が奪われるだけでなく、作業者意識が強くなって、目的志向や当事者意識が薄れてしまう恐れがある。
実際には、事業部や各部署などで各々に様々な手法やルール、テンプレートなどが存在し、機能していることが多い。まずはそのような様々な手法を集めてみることだ。所属するメンバーが共通の認識を持って、速やかに判断・実行できる、言わば“共通言語”として広げることが重要なのである。

課題6.社内の様々な手法を集め、課題の設定から解決までのプロセスを1つの「型」として確立し、全社の共通言語とする

 

「少人数で決めた戦略を実行させればよい」という考えはもう通用しない
以上、成熟期に潜む本質的な問題と取り組むべき課題について紹介してきたが、6つの課題は関係し合っている(図表7)。

【図表7】6つの課題の関係

どの課題も中長期の課題であることに気がつくだろう。成長期のように短期の成果を出しにくい成熟期においては、じっくり腰を据えた企業活動が必須なのである。

企業経営には“論理面”と“感情面”がある。“論理面”とは「いかに正しく進めるか」、“感情面”とは「いかに納得して進めるか」という側面である。戦後の日本企業には、復興のために所属する会社で頑張ろうという“感情面”の土壌があった。そのため、“論理面”で当時遅れていた経営戦略論を海外から持ち込むことで、日本企業は躍進してきた。

一方現在の日本では、全社一丸となるために“感情面”への考慮がより一層重要となっている。企業が“論理面”の基礎を身に付けてきた一方で、さまざまな要因から“感情面”がもろくなっているからだ。社員の本気をいかに引き出すか? いかに社員を熱くするか? “感情面”への配慮なくして、将来の成長イメージは描けない。つまり、少数の幹部が戦略を決めて社員に実行させるという考え方では限界があり、全社員が自律的に考えて行動する仕掛けを考えていく必要があるのだ。

 

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●大國仁(おおくに・じん)

東京工業大学大学院修了後、三菱自動車工業でマーケティング戦略策定や新型車の立ち上げに関わる。戦略系コンサルティング会社のジェミニ・コンサルティング (現Pwcストラテジー)などを経て、2002年11月ジェネックスパートナーズの設立に参画。大手サービス業や自動車メーカーなどに対して、シックスシグマ・ウェイを活用した全社変革支援を経験して独立。学生時代はファミリーレストランで5年間アルバイトとして働いた経験があり、業績の良い店舗と悪い店 舗を運営する店長の違いについての実体験をもってサービス業を支援している。

●株式会社ACWパートナーズ
企業の永続的な成長を、パートナーとして支援する経営コンサルティング会社。
社員の方々が自律的に動き、組織として成功体験を積みながら、自社独自のウェイを強めていくための各種サービスを提供する。
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