コラム

メンバーが育つ店舗づくり

店舗メンバーが育つ店舗には秘密がある

多くの企業にとって、店舗メンバーの育成は重要な課題である。「そもそも人がいない」と採用に力を入れるケースも多いが、採用と同時にメンバーが育つ環境整備も必須である。メンバーが育つ店舗では、メンバーの満足度が高い。満足度が高いから、知り合いにも勧めたくなる。自分が辞める時もその穴を埋めようと、後輩の育成に力を入れ、代わりの人を連れてくることもある。つまり、メンバーが育ちやすい店舗では人手不足にはなりにくい。今回は、メンバーが育つ店舗の秘密について紹介したい。

 

なぜメンバーは育つのか?

「なかなか人が育たない」と相談されることが多い。いろいろ手をつくすが、すぐには成長に結びつかない。人の育成には辛抱強い取り組みが必要だ。一方、いろいろ指導しすぎても、逆効果となることもある。著者自身にも苦い経験がいくつもあるが、試行錯誤を繰り返す中で工夫の余地があると思えるようになってきた。まずは、そもそも人が成長する際の前提を2つ押さえておきたい。

 

<前提1> 人は育てるのではなく育つもの

人の成長を植物に例えて考えてみる。植物を育てたい時、何をするだろうか?いくら眺めていても芽は伸びない。まして、芽を手で引っ張っても無駄だろう。植物を育てるためには、土と水と日光が必要だ。それ以外にもできることはある。添え木をさすと、つたはそれをつたって伸びていく。

土・水・日光、添え木といった環境を整えると、植物が自ら伸びるように、人も環境が整うと自ら育っていくものだ。成長のきっかけをつくり、成長を促進する環境づくりが大切である。メンバーの育成のために、芽を無理に引っ張ったりしていないだろうか?自然につたっていくような添え木をさすことはできないだろうか?

 

<前提2> 人は成功体験を通して育っていく

図表1は、人が育つサイクルである。目標を設定する、その達成のために努力する、そして成果を出して達成感を得る。この成功体験こそが、次の目標を設定する原動力となる。人は何かができるようになったときに改めて次の成長を望むものだ。最初の「~ができるようになりたい」という目標設定が大切だ。

【図表1】成長のサイクル

よく誤解されていることがある。それは、「スキルが身につく=育った」と考えることだ。大切なことは身につけたスキルによって、何かが「できるようになること」だ。そして、お客さまに喜んでもらうことだ。サービス業では、お客さまから感謝の気持ちを受け取る喜びを知ることが、企業の経営基盤の強化になるからだ。

以上2つの前提を考えると、ポイントは成功体験の機会をつくることだと言える。成功体験は、研修室では積むことはできない。やはり店舗で働くことで積むしかないだろう。

 

 

メンバーがよく育つ店舗、育ちにくい店舗

それでは、メンバーが育つ店舗とそうでない店舗には、どのような違いがあるのか? 1つの大きな違いは、メンバーが少しずつ力をつけていく小刻みな階段が共有されているかどうかだ。

メンバーが育ち業績も非常によいファミリーレストランのホール担当者の例で説明しよう。

・第1段階:お客さまのご案内、お冷・おしぼり出し、下げ物といった基本業務を担当

・第2段階:注文、ナイフ・フォークのセット、飲み物・料理運びなど一連の注文業務を担当

・第3段階:10卓ほどの1つのスペースを2人で担当

・第4段階:8卓ほどの比較的狭いスペースを1人で担当

・第5段階:10卓ほどの1つのスペースを1人で担当し、他も必要に応じてフォロー

このように階段の段差が小刻みに切られていると、次の目標が目指しやすい。その一段を登ることで自信をつけ、また次の一段を目指せる。時には、なかなかその一段が登れないこともあるだろう。しかし、その階段が職場全体に共有されていると、助け合いが起こる。どの段階で苦労しているのかが周囲からもわかるからだ。

一方、メンバーが育ちにくい職場では、共有されている階段の段差が大きい。極端な例では、「とてもよくできる」「できる」「できない」といった3段階くらいとなっている。実力と運が重なり、上の段まで登った人は少数派で、その他の人が元気をなくしていることもある。「できる人」vs「できない人」の構図になってしまうと、助け合いも起こりにくい。

【図表2】メンバーの成長の階段

 

この違いはデータにも現れてくる。図表3は、ある商品を販売する店舗の販売金額帯ごとの人数を表したものだ。メンバーが育つ環境が整った店舗では、販売額が分散する傾向がある。一方、環境が整っていない店舗では、販売額の大きい少数派と販売額が限られる多数派に二極化することが多い。もちろん異動などによる分布の変化は考慮する必要がある。

【図表3】ある販売店舗における販売金額ごとの人数

 

小まめなコミュニケーションが成長を促進する

また、個人面談などのコミュニケーションも、このような違いを生む大きな要因となる。メンバーの努力の結果をふり返り、次につなげるための面談の実施が不可欠だ。成長度合いの確認、次の目標の設定、目標達成のための支援についてすり合わせることで、成長のスピードを加速できる。安定して業績をあげているできる店長ほど、店舗メンバーとの面談の頻度が高い傾向が見られる。

メンバーが育ちやすい職場の特徴をまとめると次のとおりである。

  • 成長の階段が小刻みに定義され、職場で共有されている
  • みんなで協力しながらメンバーの力量を引き上げている
  • 成長のためのコミュニケーションの頻度が高い

 
本部としてメンバー育成を支援するために

本部は現場に対してどのような支援ができるだろうか? ナレッジ共有、人員配置、教育の観点から、①~③の3つの支援が考えられる。

 

  ① 成長の階段のモデルケースをつくり、店舗に共有する

先に紹介したようなデータ分析から、メンバーが育ちやすい店舗を特定できる。その店舗の店長からメンバーまで広くヒアリングすることで、成長の階段のモデルケースが得られる。このようなモデルケースを体系化し、共有することが非常に有効である。また、一方的に押し付けるのではなく、モデルケースを複数用意して選択やアレンジの余地を残すことで、現場の当事者意識を高めることも重要である。

 

 ② モデルケースを参考にして、各店舗の人員構成を調整する

二極化してしまった職場には、そのつなぎとなる中間的な人材を当てることも重要である。現状の人員構成とモデルケースを踏まえた異動を検討するとよい。但し、必要な人材とそこに当てられる人材のマッチングには限界がある。現場での時限的な対応として、店舗間で人材を交流させることも有効だ。同一エリアを1つのチームとして、そのチームの中で人員を臨機に調整する試みを実践している企業もある。

 

 ③ 階段を一段ずつ登っていくための教育メニューを用意する

モデルケースが体系化され、成長の過程で苦労する階段が明確になると、その階段のところに教育メニューを用意することができる。成長の階段に応じた研修は、具体性や受講者の目的意識が上がるため、効果も大きくなるはずだ。

 

ピンチを乗り切るヒントは現場にある

メンバーがうまく育っている現場には必ず理由がある。その理由を探ってモデルケースとして共有し、そのモデルケースに基づいた施策を現場が選択できる形で用意することが大切である。

また、今回はメンバー育成という観点で1つのアプローチを紹介したが、業務の効率化、チーム力の向上など、その他のテーマにおいても同様のアプローチが取れる。

外部環境が非常に厳しい現状だが、現場に埋もれているヒントをどれだけ活かせるかが、今後の競争力の源泉となってくるのではないか。

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●大國仁(おおくに・じん)

東 京工業大学大学院修了後、三菱自動車工業でマーケティング戦略策定や新型車の立ち上げに関わる。戦略系コンサルティング会社のジェミニ・コンサルティング (現Pwcストラテジー)などを経て、2002年11月ジェネックスパートナーズの設立に参画。大手サービス業や自動車メーカーなどに対して、シックスシ グマ・ウェイを活用した全社変革支援を経験して独立。学生時代はファミリーレストランで5年間アルバイトとして働いた経験があり、業績の良い店舗と悪い店 舗を運営する店長の違いについての実体験をもってサービス業を支援している。

●株式会社ACWパートナーズ
企業の永続的な成長を、パートナーとして支援する経営コンサルティング会社。
社員の方々が自律的に動き、組織として成功体験を積みながら、自社独自のウェイを強めていくための各種サービスを提供する。
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