コラム

「顧客満足向上」に潜む3つの落とし穴

少し前の話だが、オリンピック招致の決め手になったとも言われているのが、国際オリンピック委員会(IOC)総会におけるプレゼンで滝川クリステルさんが行った「お・も・て・な・し」のパフォーマンスだ。日本の良さを海外に知ってもらう絶好の機会にしたいものである。日本人のきめ細やかな心遣いをもとに、日本のサービス業がもっと海外に展開すべきではないだろうか。

一方、サービス業に関わる不安材料もある。例えば外食業界では、過労死の問題、店員によるSNSへの非常識な投稿問題といった悪いニュースが目につく。本社や本部が、厳しく指導して監視するだけでは問題の解決にはならない。問題の根っこには、店舗内での店長や社員とアルバイト店員との関係、店舗と本部の関係が大きく影響しているからだ。チェーン全体が1つになるような抜本的な打ち手が必要なのである。

今回は、サービス業が真の顧客満足を目指していくための第一歩として、顧客満足向上の取り組みについて、その落とし穴やあるべき方向性を考える。

「顧客満足No.1」というフレーズを耳にすることがある。利用客への満足度調査の結果に基づき、サービス向上に取り組んでいる企業は多いが、実は、その取り組みには落とし穴が3つある。気をつけないと、顧客満足とは真逆の方向に進んでしまうこともある。

(1)落とし穴1:

顧客満足調査の質問が、顧客の視点よりも企業の視点が強い

飲食店のテーブルでよく見かけるアンケート票も、ちょっとした顧客満足度調査だ。このアンケートの質問で違和感を覚えたことはないだろうか? よくある質問は、「店員の挨拶はいかがでしたか」「料理の提供時間はいかがでしたか」「料理の味はいかがでしたか」「料理の量はいかがでしたか」「店員の気配りはいかがでしたか」、「店内の雰囲気はいかがでしたか」といったものだ。

筆者が違和感を覚えるのは、「そんなことは、客の態度をよく見ていればわかる」と思えるからだ。では、なぜこのような質問になるのか。それは、これらの質問の主語を考えるとわかる。ほとんどの質問の主語は、店側なのである。顧客側を主語とした質問文は次のようなものだ。「ゆっくりお食事を楽しめましたか」「お昼休みにリフレッシュできましたか」「不快な思いをしませんでしたか」。このような質問をして、理由も併せて聞くことで、有効な情報が得られる。

顧客満足度調査の歴史が長い自動車ディーラーの例も紹介しよう。新車を購入したあとに送付されてくる「初期の顧客満足調査」というアンケートがある。筆者が以前新車を購入した際に、質問が50問近いアンケートが送られてきた。そのうち顧客が主語となっている質問は、たったの5つ、全体の1割に過ぎなかった。顧客側が主語の質問は、「店舗は利用しやすく快適でしたか」「全体的な満足度はいかがでしたか」「今後、点検・車検・修理で当社を利用したいですか」「次回、車を購入する際も当社から購入したいですか」「知り合いが車を購入する際に当社を紹介しますか」といった内容である。

これらの質問も、もう少し踏み込みたいところだ。自動車を検討、購入していく過程を考えると、「お車をどのように利用するか考えることができましたか」「他メーカーや中古車も含めて、候補を検討できましたか」「注文してから車を入手するまでの手続きは煩わしくなかったですか」といった質問も考えられる。

(2)落とし穴2:

評価の低かった項目を改善すれば満足度が上がるとは限らない

顧客満足度調査に意味がないということではない。顧客満足度調査で上位となった店舗は、顧客満足が高いのは事実である。複数の店舗に順位をつけるためには有効だ。しかし、真の顧客満足を目指すためには、調査結果の中身を慎重に解釈すべきである。

例えば、ある自動車ディーラーの店舗と担当者に大変満足しているお客がいたとしよう。もし担当者がこのお客に対し必要な説明を怠っていた場合、「サポート体制を十分説明してくれたか」「車の点検スケジュールについて十分説明してくれたか」といった店舗側が主語の質問に対して、そのお客は悪い評価をつけるだろうか。私なら悪い評価はしない。逆にお客が強い不満を持っている場合には、実際よりも悪い評価をつけてしまうこともある。

つまり、不満の原因が評価の低かった質問項目に関係しているとは限らないのである。項目にないことが不満の真の原因であることもあるのだ。実際の店舗の状況をみて、どの項目を改善すべきかを見極める必要がある。

(3)落とし穴3:

調査結果を突き付けて改善を強要すると企業視点がますます強まる

最後の落とし穴は、調査結果を基にした本社や本部による改善促進である。複数の店舗を管理するスーパーバイザーやエリアマネージャーが、評価の低かった項目を指摘して指導することが多い。

ここで大きく2つの反応が出る。その結果を前向きにとらえるか、後ろ向きに捉えるかである。その反応の違いは、業績の高さにも関係するが、店長をリーダーとした店舗のチーム状態がどれだけ良好かどうかによっても変わる。飲食業界では、店舗が活性化されると生産性が上がり、業績が2割くらいは上がるとさえいわれている。

店舗のチーム状態が良くない場合、店長とメンバーの信頼関係も思わしくない。従って、店長が評価結果をメンバーに伝え、業務の改善を促せない。特にアルバイト店員の多い飲食などの業種では、店長への反発などが起きやすい。先に挙げた店長の残業問題などは、本部による締め付けの強さも影響していることも珍しくない。店長は店舗の業績や各種チェックを重圧として感じ、チームワークの向上やメンバーへの配慮もできず、孤立してしまうことがある。

大切なことは、店舗内面から変えない限り、真の顧客志向につながらないといことだ。調査結果をもとにギャップを無理やり埋めるのではなく、店舗の意思を引き出すようなアプローチが必要なのである。

●経営理念を軸として、性善説で店舗の強化に取り組むことが大切

真の顧客満足を目指すためには、店舗で働く人々自身でお客様に対するサービスを振り返り改善をしていく必要がある。つまり、本社や本部による他者評価ではなく、店舗による自己評価である。店舗数が多くなるにつれて、店舗を評価して悪い店舗をなんとか改善させようという思考が強くなる。しかし、間違えてしまうと減点主義が強まり、性悪説のもとで店舗に接してしまうことになる。そうなることにより、店舗が顧客のほうを向かなくなる。

「客の心を心とせよ」。ダスキンの主力事業の1つであり、全国に約1400店を展開するミスタードーナツの事業理念である。大手企業ほど、このようなしっかりした理念の下で全社が一丸となり、店長やスタッフを信じたマネジメントを行うことが、お客に真のサービスを提供するためには大切なのである。

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●大國仁(おおくに・じん)

東 京工業大学大学院修了後、三菱自動車工業でマーケティング戦略策定や新型車の立ち上げに関わる。戦略系コンサルティング会社のジェミニ・コンサルティング (現Pwcストラテジー)などを経て、2002年11月ジェネックスパートナーズの設立に参画。大手サービス業や自動車メーカーなどに対して、シックスシ グマ・ウェイを活用した全社変革支援を経験して独立。学生時代はファミリーレストランで5年間アルバイトとして働いた経験があり、業績の良い店舗と悪い店 舗を運営する店長の違いについての実体験をもってサービス業を支援している。

●株式会社ACWパートナーズ
企業の永続的な成長を、パートナーとして支援する経営コンサルティング会社。
社員の方々が自律的に動き、組織として成功体験を積みながら、自社独自のウェイを強めていくための各種サービスを提供する。
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