コラム

チャレンジの前に行っておきたい“前さばき” ~成功確率を高める方法~

2016年の新しいチャレンジに向けて

いよいよ今年はリオデジャネイロ五輪だ。世界のアスリート達の勝負が楽しみである。大会が終わると、東京オリンピックの話題もますます増えていくだろう。金融市場への不安や労働人口の減少の問題も気になるところだが、少なからず盛り上がりを見せるであろう気運を活かしたいところだ。これから五輪までの時期をチャンスと捉えて、新しいチャレンジに挑む取り組みを是非成功させていただきたいと願っている。

 

企業のチャレンジを阻むもの

挑戦には抵抗がつきものだ。「本当にできるのか?」「無理があるのではないか?」といった否定的な反応も出てくる。それらの反応には、「自分なりに取り組むとしたら」とか、「一緒に取り組んでいく前提として」という自分事(じぶんごと)としての発言もあるが、他人事のものもある。他人事に感じられる発言は、挑戦しようとしている人達のやる気を削ぐ。特に、陰で否定的な発言がささやかれるようになると、雰囲気もおかしくなってくる。会社の近くの居酒屋などで負のエネルギーが増幅されていくことも珍しくない。

今回は、チャレンジの成功確率を少しでも高めるための“前さばき”について紹介したい。“前さばき”次第で、順調にスタートを切れるかどうかに大きく変わってくる。

 

新しいチャレンジに挑むために必要な“前さばき”

是非実施していただきたい“前さばき”は3つある。

 

1.過去のチャレンジの負の遺産への配慮

「失われた20年で企業に蓄積されてしまったものは何か?」と聞かれたら、筆者は業務改善などの様々な活動だと答える。右肩上がりの国内市場の成長期が終わり、多くの企業は収益を確保するために様々な活動を推進してきた。

結果として成果を上げた活動もあればそうでないものもある。また、継続することが目的化して、惰性で続いているものもある。「良いことだから続けなくては」という気持ちは称賛されるべきだが、活動の位置づけやゴールが見直されないことは問題である。惰性で続けてしまうと、活動の印象は徐々に悪くなる。「続けさせられている」という意識が少しずつ強まっていくからだ。効果を出して成功したと思っていた活動が、失敗という認識に変わってしまうこともある。「あの活動は失敗だった」という意識が多数派になって、せっかく一生懸命続けてきた人達が後ろ指を指されるような事態は絶対に避けるべきだ。

筆者が新しい活動の立ち上げを支援する際には、過去の取り組みの目的と成果、そして主導してきた方々を確認して、できる限り話を聞くようにしている。新しい活動が始まるということは、過去の似たような活動を暗に否定することになるからだ。

過去の取り組みの成果を確認し、成果の要因となった考え方や方法を受け継ぐような振り返りが大切である(図表1)。皆で話し合う有効な方法として、書籍『事業計画、再考!』(眞人堂)に『振り返りミーティング』を紹介しているので参考にしていただきたい。

【図表1】過去の活動の振り返り

 

2.チャレンジによって目指すゴールへの認識を共有する

2つ目の“前さばき”は、ゴールについての認識共有である。企業を大きく動かす活動ほどゴールが抽象的になる傾向がある。中にはスローガンのようなものだけが独り歩きすることもある。

大規模な活動で抽象的なゴールが独り歩きするとどうなるのか? 当然だが、活動の規模が大きくなるほど関わる人が多い。関わる人が多くなると、それだけ様々な思惑と動きが生じるものだ。「私はこう解釈した。(このように捉えて、これがしたい)」「これも関係している。」といった具合に、取り組むことが増えていく。

木で例えると、幹にたくさんの枝が生えてくるような状況である。その結果、当初目指していた活動の骨子である木の幹が、増えた枝によって隠されていく。枝が増えるということは、それだけ栄養が必要になる。つまり、活動に多くのリソースが取られることになって、やり切ることができなくなり、成功確率も下がってしまう。

そのためにも、ゴールを詳細に書き出して、関係者で合意することが大切だ。プロジェクト活動に慣れている企業では、プロジェクトを定義するフォーマットもあるが、その中で最も重要なのは“ゴール”である。

3.疑問や不安を出し切って、手を打っていくべきリスクを洗い出す

前述のとおり、チャレンジには否定的な意見が必ず出てくる。いちいち気にしていては前に進めないと考え、意識的に鈍感になることも重要だ。しかし、否定的な意見の中には活かせる意見もある。起こり得るリスクを予見して、発言していることも多いからだ。リスクを放置するのではなく、リスクに向き合うことも大切だ。まずはリスクを出し切るだけでも、推進のためのエネルギーになる。

以前、業界初の商品を立ち上げるプロジェクトを支援したことがあった。業界の慣習などから、市場に出した時に様々な反応や抵抗が予想された。プロジェクトチーム内には、負のエネルギーが漂っていた。そこでリーダーは、不安や懸念をメンバーに出してもらうことにした。どんな事でも発言する、数にこだわったブレーンストーミングだ。不安や懸念は200を超え、起こってほしくないリスクのリストができた。それを見てメンバー達はどう思ったのか? 負のエネルギーが大きくなったのか? 答えはNoである。「確かにたくさんあるが、着実に潰していけば成功できる」と思えるようになったのだ。リスクを評価して重要なリスクから予防策を打っていき、無事市場に出すことができた。

 

『振り返りミーティング』と共にお勧めしたい『ワクワク・モヤモヤ会議』

成功確率を高める“前さばき”は、以上の3つである。一つ目の“前さばき”には『振り返りミーティング』が有効であることを紹介したが、残り2つの“前さばき”にも有効な方法がある。それは、『ワクワク・モヤモヤ会議』というものだ。

ワクワクとは“期待”である。「お客さまにこのように喜んでもらえそう」「こんな問題が解決しそう」「職場にこんな良い影響がありそう」といったことを、どんな事でもいいから出してもらう。チャレンジの結果に責任を持つオーナーは、今回の取り組みで必ず達成したいこと、波及効果として狙えること、取り組み後に別の活動で目指すことに分類してメンバーに明確に伝えることで、2つ目の“前さばき”であるゴールの認識共有ができる。

モヤモヤとは、“疑問や不安”である。「これってどういうこと?」「こんな解釈でいいの?」「ここは大丈夫?」といったことを、ワクワクと同様に数多く出してもらうことで、3つ目の“前さばき”のリスクの洗い出しになる。会議の進め方はシンプルである。図表2のような枠組みを使って、意見を出し合う。「どんなことでもいい。とにかく100個出す」といったルールの下で、意見を洗い出す。

【図表2】討議の枠組み

洗い出した意見は持ち帰って、ワクワクをもとにした目指すべきゴールの明文化と、これから手を打っていくべきリスクのリスト化を行う。次の会議で、それらを共有してディスカッションすることで、ベクトルが相当合ってくる。この方法は、部署の方針や計画を説明する時にも活用できる。

実り多い2016年にするためのヒントとしていただきたい。

 

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●大國仁(おおくに・じん)

東京工業大学大学院修了後、三菱自動車工業でマーケティング戦略策定や新型車の立ち上げに関わる。戦略系コンサルティング会社のジェミニ・コンサルティング(現Pwcストラテジー)などを経て、2002年11月ジェネックスパートナーズの設立に参画。大手サービス業や自動車メーカーなどに対して、シックスシグマ・ウェイを活用した全社変革支援を経験して独立。学生時代はファミリーレストランで5年間アルバイトとして働いた経験があり、業績の良い店舗と悪い店舗を運営する店長の違いについての実体験をもってサービス業を支援している。
●株式会社ACWパートナーズ
企業の永続的な成長を、パートナーとして支援する経営コンサルティング会社。
社員の方々が自律的に動き、組織として成功体験を積みながら、自社独自のウェイを強めていくための各種サービスを提供する。
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